自筆証書遺言の書き方や注意点
遺言書を書いた際に定められた方式に従い作成すれば法的な効力が発生しますが、その方式の他にも遺言が無効になってしまう場合もいくつかありますのでその場合と注意点を詳しくお伝え致します。
まずは、遺言能力の有無についてです。実は遺言書が認められるかどうかについては遺言能力の有無が大きく関わってきます。遺言能力とは「遺言を正しく言葉にでき、遺言の内容を理解し判断する能力があるかどうか」というもので、遺言能力がないと判断された場合には書いた遺言も無効となってしまいます。遺言能力の判断で重視されるのが医学的観点からの疾病の有無や疾病程度です。診断書やカルテ等だけでなく看護記録や介護保険の認定記録等から元に判断されることになります。また遺言書の内容が複雑か簡単かという点や動機として自然かどうかという点も判断材料となります。遺言能力がないと判断された場合はたとえ公正証書遺言であったとしても無効となってしまいますから、遺言書は元気なうちに作成しておくのが得策といえるでしょう。
また、相続について記載するのは一般的な方法ですが指定されている推定相続人が先に亡くなってしまうこともあります。このような場合は推定相続人に関する記述は全て無効となってしまいます。内容を書き換えることも可能ですが、その時にも遺言者に遺言能力があるという保証はありませんから、そういったリスクを防ぐためは予備的遺言を活用します。予備的遺言はもしものときを見越した遺言のことで、最優先される推定相続人が亡くなった場合に備え次の相続人を指定しておきます。
また、遺言書を作成する場合に夫(妻)のみが作成するというケースがとても多いのですが、相続人にした方が先に亡くなった場合に処理に困るため遺言書を作成するときは可能な限り夫婦相互遺言を作成するようにしましょう。ただし、同じ遺言書にふたり分の遺言を記載するのは共同遺言となり法的に無効とされてしまいますので注意が必要です。
遺言とは自分の死後に備え意思表示を言葉・文章で残すものです。定められた方式に従い作成すれば法的な効力が発生しますが、方式から外れた遺言は無効になる可能性がありますので遺言を残す際にはしっかりと作成方法を調べ方式に則って書くことが重要となります。遺言書の種類については「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」三つの種類がありそれぞれ異なります。
まずは「自筆証書遺言」ですが全ての記述を自分で書く遺言書のことを指し、費用もかからず誰でも手軽に作成する事が可能です。しかし偽造を防ぐ為にも「自筆で」作成する必要があり代筆は認められていません。ただし通帳のコピーで預金を特定させても良く、財産目録についてはパソコンで作成しても良いとされています。それ以外についてはパソコンなどでの手書き以外での作成は認められていません。また遺言の執行には家庭裁判所の検認手続が必要となりますが、自筆証書遺言の保管制度で法務局で自筆証書遺言を保管してもらう場合は検認の手続きが不要となります。自筆証書遺言の保管手続きには本人確認書類等が必要となり、法務局で自筆証書遺言の内容確認がされますので封は必要ありませんし、法律上の要件を満たしているのか確認をしてくれます。また、法務局では遺言の原本を保管するだけでなく、その内容を画像データにして保存してくれますので相続人は全国で遺言書の有無や内容を確認することが可能になります。遺言には「特定遺贈」と「包括遺贈」という方法があり、遺贈とは遺言によって自分の財産をあげることで、財産を特定して遺言書を書く場合を特定遺贈といいます。反対に財産を特定せず割合で示して遺贈する遺言書を書く場合を包括遺贈といいます。遺言書を書く場合には包括遺贈の方が割合を示すだけで済むので簡単なのですが「どの財産を・誰が相続するか」ということが明確に決まっていないと、せっかく遺言書を作成しても相続トラブルに発展してしまう恐れもありますから遺言書を作成する場合には包括遺贈ではなく特定遺贈の方が望ましいと言えるでしょう。
〇自筆証書遺言を作成する際の注意点
・遺言者本人が自分自身で書く:財産目録以外はすべて遺言者本人が直筆で書く必要があり、代筆やパソコンで作成した場合は無効となります。
・日付を記載する:日付は遺言書を作成した年月日を直筆で記入します。日付印などによる記載や日付のない場合は無効となります。
・署名をする:自筆による署名がない場合は無効となります。氏名の自署は芸名やペンネームでも本人と分かる場合は認められます。
・捺印する:捺印は後々のトラブルを避ける為に実印が望ましいとされています。認印・拇印でも問題はありません。
また、遺言書が何通もある場合には後の日付のものが有効となり、遺言書が数枚にわたる場合には割印をするのが好ましいとされています。変更箇所がある場合には具体的な変更箇所を指示し変更した旨を付記した上で署名捺印し、変更箇所にも捺印をしなければなりません。なお、縦書き・横書きの形式はどちらでも構いません。用紙や筆記用具についても何を使っても良いとされていますが消すことが出来るボールペンなど簡単に消えたり改変できるような筆記用具の使用はやめましょう。封筒に入れなければならないというルールなく、遺言書には財産に関するものだけではなく「子の認知」「未成年者の相続人の後見人」などについても指定することができます。民法で財産の相続分について法定相続分が定められていますが、遺言で指定をした場合には遺言の方が優先されます。ただし、記載された内容すべてが法的な効力を持つ訳ではなく法的な効力を持つ遺言の項目は主に以下の十項目に限られています。
〇遺言できる項目
・子の認知:婚姻関係にない方との間に出来た子どもとの間に法律上の親子関係を生じさせ、その子どもに財産を相続させることが可能。
・後見人の指定:相続人が未成年者である場合に信頼できる人を後見人として指定することが可能。
・遺贈:法定相続人ではない人に対し特定の財産や財産の何割かを与える・寄附などが可能。
・相続の廃除または排除の取消:相続人となる人の相続権を剥奪・取消を行うことが可能。
・相続分の指定または委託:遺産の分割で法定相続分と異なる割合を指定・その指定を第三者に委託することが可能。
・遺産分割の禁止:遺産の分割を禁止することが可能。(五年を超えない範囲)
・遺産分割方法の指定または委託:「どの財産を・誰に」相続させるかといった指定や財産の分割を指定する・その指定を第三者に委託することが可能。
・遺言執行者の指定または委託:遺言の内容を確実に実現するために必要な手続きを行う遺言執行者の指定・その指定を第三者に委託することが可能。
・相続人相互の担保責任:相続人が取得した財産が回収不能となった場合に別の相続人にその分を負担させることが可能。
・遺言減殺方法の指定:遺留分権利者から減殺請求をされた場合にその減殺指定が可能。
上記以外の内容は遺族は必ずしも守らなければならないということにはなりませんので注意が必要です。
公正証書遺言と秘密証書遺言について
ここからは公正証書遺言と秘密証書遺言についてお伝えいたします。正証書遺言は公証役場で公証人と呼ばれる裁判官や検察・弁護士・司法書士など法律に携わる人の中から法務大臣によって任命された人に作成してもらう遺言書のことを指します。自筆証書遺言と違い、遺言者が口頭で述べた遺言を公証人が遺言書に記述するという方法で作成しますので、法的なミスが起こる事はないですし遺言についてアドバイスも貰えますので最も確実性の高い遺言書の作成方法だといえるでしょう。また家庭裁判所の検認手続も必要ありません。ただし作成する際には本人確認のための実印とその印鑑証明が必要な上に遺言の正当性を保証するために二人以上の証人と一緒に公証役場を訪れる必要があります。遺言を公正証書で作成するに必要なものは「遺言者本人の印鑑登録証明書」、遺言で相続人に相続させる場合には「遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本」、遺言で財産を相続人以外の人に遺贈する場合には「その方の住民票等の氏名・住所・生年月日のわかるもの」、財産が不動産の場合は「登記簿謄本や固定資産評価証明書」、不動産以外の財産の場合は「それらを記載したメモ」証人二名の「住所・氏名・生年月日・職業を書いたメモ」「証人二名の認印」、遺言執行者を決めておく場合は「その方の住所・氏名・生年月日・職業を書いたメモ」が必要です。(証明書は三ヶ月以内に発行されたもの)
また、公正証書遺言書を作成する場合は手数料がかかります。手数料は相続財産の額によっても変わり、相続財産の金額が多ければその分手数料も多くなります。詳しい手数料については「公正証書遺言書 手数料」といったようにインターネットで調べると一覧で出てきますのでそちらを参考にしてください。
続いて秘密証書遺言についてですが、秘密証書遺言は例えるなら自筆証書遺言と公正証書遺言の中間のような遺言書です。自筆証書遺言書と同様に自分で書き、公正証書遺言と同様に公証人のところへ持ち込み遺言書の存在を証明してもらいます。ただし、中身は公証人にも秘密にしたままであるため、公証人が認めるのは遺言書の存在だけであり中身に関しては保証はされません。中身を公証人が確認するわけではないため、自筆証書遺言の項で述べた注意点には同様に気をつける必要があります。自筆証書遺言との大きな違いはパソコンや代筆などで作成された遺言書でも構わないという点です。自筆証書遺言では偽造を防ぐ為にパソコンや代筆などでの作成を禁止されているのですが、秘密証書遺言では本人が確認をして証明を求めているため偽造かどうかを疑う必要がないということから自筆でなくても可能なのです。公証人のところへ持ち込み遺言書の存在を証明してもらう際には証人が二人以上同席する必要などはありますが、自筆証書遺言と同じく手軽かつ秘匿性を守って作成することができます。