エンゼルケアについて
エンゼルケアとは人が亡くなった後に行う死後処置・死化粧などをまとめて呼んだものです。ご遺体をきれいにするという行程は昔から行われてきました。かつては人が亡くなった際には遺体を沐浴させる湯灌が親族の手によって行われていました。湯灌は近年でも行われていますが病院で最期の時を迎えることが多くなった近年では、看護師によって身体をアルコールに浸した脱脂綿で拭く清拭が施されるのが通常ですので以前と比べると湯灌は行わないことが多くなってきています。病院で亡くなった場合には看護師や病院が提携している業者が行ってくれ、料金は病院により様々で無料から数万円かかる場合があるというように多様ですので注意が必要となります。また、湯灌を希望する場合には葬儀社など専門の業者に依頼することになります。
エンゼルケアですることについては海外では死後処置についてマニュアル化されている国もありますが、現在の日本においては法整備がされている訳ではありませんので、病院の方針・ご本人の遺志・ご家族の希望や宗教的な慣習などを考慮して処置が行われることになります。ですから、エンゼルケアの内容は病院により多少差が生じますが一般的には「医療器具を外した後の手当・治療でできた傷の手当・身体の清拭・鼻口耳への脱脂綿詰め・着替え・死化粧」などが行われます。また医療機関で行われるエンゼルケアには大きく分けて二つの意味があり、ひとつは衛生面の理由です。亡くなった人に施す死後処理は遺族や搬送業者・葬儀社担当者などの安全管理上において重要なものです。臨終直後のご遺体からは感染症のリスクもある為、死後処置は専門知識を持った人の手で適切に行われる必要があります。もうひとつの理由としては、故人を尊んで見送る準備の意味もあります。人生の最期の時の姿を美しく整えることは、故人の尊厳を守ると同時に遺される方に対する心のケアにも繋がるのです。長い闘病の末に亡くなると、元気だった頃からは容貌が大きく変化していることも多く、そうした姿は家族にとって深い悲しみの原因となりかねません。元気な時の姿とあまりにかけ離れた姿だと、遺族はなかなか死を受け入れることができないとも言われています。エンゼルケアによって納得感や満足感を得ることができますので、それが大切な家族の死を受け入れ、悲しみから立ち直る為の過程のひとつにもなるのです。
死化粧・エンゼルケア以外でご遺体に行う処置の中に「湯灌」と「エンバーミング」があります。この二つについては死化粧やエンゼルケアと混同しやすいのですが、同じものではありません。まず、湯灌とはご遺体をお風呂に入れて洗い清めることをいいます。エンゼルケアにおける清拭の代わりに行われる場合があり、ご遺体の体を拭くだけではなくお湯を流してあげたりシャンプーで洗ったりもします。エンゼルケアと湯灌はご遺族の意向によって一緒に行われる場合もあります。ただし、湯灌はお湯の作り方など儀式としての決まりごとがありますので、こちらもエンゼルケアとのおおきな違いとして挙げられます。湯灌については専門の業者に依頼している葬儀社も多いですから、希望する場合には事前に相談してみると良いでしょう。また、エンバーミングとはご遺体に腐敗防止処置を施して衛生的に保存する技法のことです。場合によっては修復処置が含まれることもあります。エンゼルケアとの大きな違いは目的と方法です。エンゼルケアはご遺体を美しく整えることを主な目的とするのに対し、エンバーミングはご遺体を長く衛生的に保存することを主な目的とし、切開や薬液の注入などの施術も行われます。
エンゼルケアの流れ
エンゼルケアは、故人が亡くなられてから納棺されるまでの間に行います。病院で亡くなられた場合には死後措置の一環として看護師や業者の方が行いますが、病院以外の自宅などで亡くなられた場合にはご遺族・納棺師や葬儀社などに湯灌として依頼して行うことも可能です。介護施設の場合には以前は看護師が行っていましたが、近年では介護士が行うケースも増えてきています。この様にエンゼルケアを行う場所や人は状況によって様々ですが、近年では病院での死亡率が多数を占めるといわれている為、ここからは看護師が行う場合のエンゼルケアの例をご紹介致します。
看護師が行う場合には体の表面だけでなく体内のケアも含みます。病気で亡くなられた場合には、故人の体に点滴やドレーンなどの医療器具が挿入されていることがあるので、まずはそれらを抜去します。この処置については看護師ではなく医師が携わる場合もあります。また、胃に内容物が残っていたり尿や便が溜まったりしている場合があるので、腹部や胃を圧迫してそれらを取り除きます。その他にも口腔や鼻腔内の吸引も行います。あごの硬直が始まる前に、口腔内の臭気を防止する為に歯ブラシやガーゼ・消毒用アルコールなどを用い口腔ケアを行います。体を拭いて清潔にすることを「清拭」と呼び、全身の清拭を行う際には体液の漏出を防ぐため「綿詰め」を行う場合があります。綿詰めとは肛門や鼻腔に脱脂綿を詰める行為で、以前は慣習的に行われていましたが近年ではこれが体液の漏出防止になる根拠がないとされていて行われないケースも多くなってきています。また、病院によっては専用のゼリーなどを用いて体液の漏出を防ぐ場合もあります。清拭が終わったら、故人の服を着替えさせます。病院が用意した浴衣などに着替えさせる場合もありますが、故人がお気に入りの服やご遺族が望んだ服に着替えさせる場合もあります。浴衣については、着付けの際に「襟は左前」「帯は縦結び」といった日本の慣習に沿った方法で行うのが一般的です。最後に髪や顔を整えて化粧を行います。髪は汚れの程度によりドライシャンプーをしてから櫛を入れてとかします。顔についてはクレンジングや乳液での手入れ・髭剃りをしたりして化粧の準備をします。化粧の方法は基本的には通常のものと変わりませんが、顔色に応じ色味を変えたり故人の好みに合わせたりと臨機応変に対応します。化粧まですべて終えたら、ご遺体の手を合掌の形にし、顔に白い布かけ体をシーツで覆います。ここまでが死化粧・エンゼルケアの一連の流れです。
エンゼルケアには、故人の死にゆっくりと向き合うというご遺族の心のケアの意味もあります。ご遺族の方以外が行う場合でも、方法についてはご遺族の意向が尊重されます。病院に任せる場合でも進め方などで気になることがあれば相談した上で行ってもらいましょう。宗教上の決まりがある場合なども事前に打ち合わせをしておきましょう。ご遺族が一緒にケアを行うケースもありますが、ご遺族が死化粧・エンゼルケアに参加される場合は、場合によっては感染症のリスクがあることを意識する必要があります。感染症のリスクがある場合には、病院から貸し出されるマスクや手袋などを用い指示に従って行いましょう。